福岡高等裁判所 昭和24年(つ)256号 判決 1949年11月29日
被告人
松下義行
主文
本件控訴は之を棄却する。
当審における訴訟費用は被告人の負担とする。
理由
弁護人控訴趣意第二点に付いて。
原判決主文に訴訟費用と云うのは具體的には証人中田大作、守田時角、其田靜夫、藤本満太郞に支給した旅費日当等を指すものであること、右の内藤本は最初から臨時物資需給調整法違反被告事件に付いての証人として取調を受けたに反し前三者は元來業務上横領被告事件に付いての証人として取調を受けたものであるが後に原告側により(被告側にも異議なし)臨時物資需給調整法被告事件の証拠として援用されたものであること記録に徴して明白である、而して右藤本に関する分については問題外であるが他の三者につきその内容を調べて見ると孰れも実質的には臨時物資需給調整法違反被告事件関係が主であり、さればこそ原判決においてもこれを右被告事件の証拠として採用している事明白である。かゝる場合裁判所としては当初該証人の取調をした目的の如何を問わず刑事訴訟法第百八十一條に基いて右訴訟費用全部を被告人に負担せしめ得べきこと同條の法意に照してむしろ当然と謂うべく論旨は理由がない。
(弁護人控訴趣意第二点。)
原判決は被告に対し本件に関する一切の訴訟費用の負担を命ぜられあるも被告に全部の費用を負担せしむべきものにあらず全部の費用と云ふときは原審が無罪を言渡したる横領事件の爲め特に要したる費用も包含するものと解せらるべし本件被告に対しては初め横領罪として起訴せられ其の点に付き数名の証人をも喚問せられ多額の費用を要しあるものなり、然るに後に至り臨時物資需給調整法違反行爲を起訴したるものなるを以て二個の起訴事実あるに至り両者を併せて審理せられたるが横領事件として既に多くの費用を要したる後に於て後の起訴分に付き少額の費用を生じたるに過ぎず刑事訴訟法第一八一條には「刑の言渡をしたときは被告人訴訟費用の全部又は一部を負担させなければならない」とありて全部を負担せしむべき理由ある場合に於ては其の全部を負担せしめ一部を負担せしむる理由あるときは一部の負担を命すべきものなり故に一部の負担を命ずべき場合には全部の負担を命すべきものにあらず本件に於いて横領罪としての起訴部分に付き特に多額の費用を要し其後に於て後の起訴部分に付き少額の費用を要したるものなること一件記録上実に明了なり依て原判決中の費用負担に関する点は取消若くは變更せらるべきものなり。